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宮坂 宥洪( みやさか ゆうこう)
照光寺住職
成田山蓮華不動院住職
智山伝法院院長

月々の言葉と連載法話
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これまでの法話を毎月一話ずつ紹介していきます。また、毎月境内に貼られる月々の言葉を掲載 していきます。

お寺を訪れる人は、住職の「月々の言葉」に励まされています。ご覧になった方の、心の支えになれば幸いです。

今月の言葉

【イギリスの保守性】vol.37

イギリスのイングランド南西部に、バースという都市があります。
人口は9 万人程度ですが、個人住宅を含む都市全体がユネスコの世界遺産に登録されています。
もし中世の時代の映画を撮影しようとすれば、現在の街角がそっくりそのまま舞台として通用するほどの街路風景を保存しているのです。
電線は地下に据えられているので電柱はなく、広告の看板もほとんどなく、交通の標識や信号機も目立たないように低く立てられています。

バースのある長屋のようなアパート(といっても長大な城のような建物)で、全戸が白の扉を、自分の好みで黄色く塗った人がいました。
それは全住民から猛反発を受け、裁判沙汰になり、ついにその住民が、なんと欧州連合に訴えたところ、「自分の家の扉を何に塗ろうと自由だ」との裁決を得たのですが、それはイギリス中で批難の的となりました。
その程度のことが地元住民を始めイギリス国民にとって耐え難いことだと思われている感覚は、ある意味でとても貴重です。
ロンドンの中心街でも、建物の内部をどう改変しようと、昔からの外観だけは絶対に毀してはならないということで、ロンドン住民は、途方もない経費をつかい、街路や建物の外観を維持しています。

これを日本に置き換えると、東京都心で、かつての江戸時代の町並みを、そっくりそのまま維持しようとしているようなものです。
日本でも村全体に江戸時代の家屋が残されていて世界遺産に認定されている白川郷や、江戸時代の宿場町の風情を保存している木曽路の馬籠や妻籠などがありますが、それらはたまたま近代的開発が及ばなかったために希少価値が生じた珍しい事例にすぎず、イギリス全土のほとんどすべての都市や村で昔の街路風景を保つ頑固な保守性とは趣が異なります。

イギリスでは、「市」と呼ばれる基準は、日本のように一定数以上の人口があるかどうかではありません。大聖堂があるかどうかです。例外はケンブリッジとバースだけなのですが、ケンブリッジ大学の各カレッジにはすべて立派な教会があり、バースには大修道院があります。それをもって大聖堂があるということにして市になっているのだそうです。
そうした歴史的に由緒のある宗教的建造物こそが都市の要だという考えは、残念ながら今の日本には片鱗もありません。

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