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宮坂 宥洪( みやさか ゆうこう)
照光寺住職
成田山蓮華不動院住職
智山伝法院院長

月々の言葉と連載法話
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これまでの法話を毎月一話ずつ紹介していきます。また、毎月境内に貼られる月々の言葉を掲載 していきます。

お寺を訪れる人は、住職の「月々の言葉」に励まされています。ご覧になった方の、心の支えになれば幸いです。

今月の言葉

【ユートピア幻想】vol.20

ユートピアとは、もとはトマス・モア(1478~1535)の小説の題名で、「どこにもない場所」を意味するギリシャ語に由来するモアの造語ですが、夢のような理想郷という意味でよく用いられています。「ここはまるでユートピアのようだ」と言えば普通は褒め言葉です。
ユートピア文学は実は数多くあるのですが、やはりモアの作品と、カンパネラ(1586~1639)の『太陽の都』が双璧をなしています。
モアの作品に描かれたユートピアが、本当に実現すべき理想郷として夢想された時代があったのかもしれません。でも、その実態は─。

そこでは私有財産は認められず、すべての富や財産は共有。あらゆる種類の品物が納屋や倉庫に種類別にしまわれていて、各家庭の戸主がやって来て、必要とするものは何でもそこからいくらでも持ってゆく。金もいらなければ交換するものもいらない、抵当も担保もいらない。きまった時刻に真鍮の喇叭を合図に全区民が集まって一斉に食事をする。起床から就寝まで、全住民の1日の生活時間が決められていて、男女平等に6時間の労働が課せられている。怠け者は奴隷にされる。酒場も居酒屋もない。金銀を汚いもの、恥ずべきものという観念を人々に植えつけるために、わざと金や銀で便器や奴隷を縛るための足枷・手枷の鎖をつくる、等々。。

これを収録した岩波文庫(平井正穂訳『ユートピア』昭和32年)の解説では、「ユートピア国は人類の目標とすべき自由の天地であり、まさしく理想国家であり、進歩の極限とされている。そこでは金持による搾取はなく、人々は6時間の労働条件をエンジョイしている。
…要するに、共産的な社会機構がうるわしく運営されているのだ。およそ、進歩的といわれる近代人が心の中に描く未来の国家像がここにあるといっても誇張ではない」と、無批判かつ無条件に絶賛しています。

これよりもっと過酷な「監獄社会」を描き出したカンパネラは、実際に一生のほとんどを獄中で過ごし、そこで『太陽の都』を著しました。
住民が監獄の囚人のような管理下に置かれて、一部の統率者を除いて人々が完全に平等であるべきゆえに自由度ゼロの国が、「ユートピア」の実態なのです。そんな人工的な国家を本当に実現してしまったのが旧ソ連でした。ソルジェニツィンが正しく収容所列島と呼んだ国です。
ユートピアが理想郷ですって? とんでもない幻想です。

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